妊娠~出産にかかる費用が安くなる公的保険と不妊治療助成制度をまとめました。
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社会保障や公的保険
妊娠していることがわかると、大きな喜びを感じる一方で、今後のお金の面でさまざまな不安を抱えるようになると思います。
しかし、私たちが加入している健康保険や国民健康保険などの「公的保険」には、妊娠から出産までの間に負担するお金について補助・助成する仕組みがあることをご存知でしたか?
この記事では、妊娠から出産までに発生するお金の負担を軽減する公的制度と不妊治療助成について詳しく解説していきます。また、「出産時の帝王切開」といった「異常分娩」で出産した場合にも活用できる公的制度についても解説していきます。
妊娠から出産までにかかる費用の平均金額とは?
はじめに、妊娠から出産までにかかる費用についてざっと説明していきます。
妊娠から出産までにかかる費用は選んだ病院や住んでいる地方自治体によって異なりますが、大体「5万円から10万円」くらいかかることになります。
ただこれは、あくまでも出産が帝王切開のような異常分娩ではなく正常分娩であったなどの条件付となります。
厚生労働省が公開している「出産費用の全国平均」は以下のとおりです。
入院日数 | 6日 |
---|---|
入院料(食事含む) | 110,112円 |
室料差額 | 14,653円 |
分娩料 | 230,920円 |
新生児管理保育料 | 50,445円 |
検査・薬剤料 | 11,915円 |
処置・手当料 | 13,336円 |
産科医療補償制度 | 29,672円 |
その他(医療外費用) | 25,324円 |
小計 | 486,376円 |
全国平均の出産費用は486,376円となっていますが、実際には公的保険の補助・助成によって実質負担金額は「5万円から10万円程度」で済みます。
妊娠・出産で受けられる公的制度の補助・助成とは?
妊娠から出産までの期間は長く、この間、何度も病院へ足を運んで検査をすることになります。
もちろんおなかの中の子どもが順調に育っているかの定期的な検査であり、絶対に欠かすことのできないものではありますが、定期的な検査は一般世帯の負担増になりますから、その経済的な負担を軽減するために、国や地方自治体では様々な手厚い助成制度を実施しています。
助成制度その1:妊娠健康診査に対する補助
妊娠健康診査とは「妊婦検診」とも呼ばれ、妊婦さんや赤ちゃんの健康状態を定期的に行うための健康診査です。
実は、私たちが加入している健康保険や国民健康保険では、この妊婦検診にかかる費用は保険の対象外となるため、原則として全額の医療費を負担する必要があります。
しかし、長期に渡って何度も病院へ足を運び、妊婦さんと赤ちゃんの健康状態をしっかりと確認する必要があるのにも関わらず、全額の医療費の負担を強いられてしまうと生活が大変になってしまいます。そこで、地方自治体では妊婦さん世帯の医療費負担を軽くするために、妊娠健康診査に対して助成を行っています。
この助成は、住んでいる自治体によって異なる特徴がありますが、一例として以下のような助成があげられます。
① 妊娠健康診査の14回分無料券の配布(例:東京都や神奈川県など)
② 妊娠健康診査にかかった費用の一部を助成する受診券の配布(例:大阪府貝塚市など)
③ 病院などの医療機関で一旦全額支払った後、手続をすることで一部が還付
なお、上記の助成を実際に受けるためには、お住いの自治体の役所へ行って「妊娠届」に必要事項を記入し提出する必要があります。
この手続を行うことで「母子手帳」をもらうことができ、このときに妊娠健康診査の無料券がもらえるといった流れになります。
地方自治体によって助成に異なりはあるものの、妊娠健康診査の無料券(14回)を配布する自治体が全体的に多いようです。
助成制度その2:出産育児一時金
出産育児一時金とは、子どもを出産した場合に支給されるお金のことをいいます。
出産育児一時金は、子ども1人につき「42万円」が支給され、仮に双子以上の子どもを出産した場合は、その子の人数に応じた出産育児一時金が支給されます(健康保険や国民健康保険といった公的保険の加入種類に違いはありません)。
上場会社の健康保険組合や住んでいる地方自治体によっては、「付加給付金」といって出産育児一時金に上乗せされて支給されるお金が出る場合もあります。
以下では、出産育児一時金をもらうための手続方法について2つ解説していきます。
1つ目の方法:出産後に出産育児一時金を申請する(おすすめ度 × )
出産育児一時金をもらうための1つ目の方法は、「出産後に出産育児一時金を申請する」方法です。
この方法では、出産に要した費用をいったん全額支払う必要があります。そしてその後に、加入している公的保険の関係窓口に対して出産育児一時金の請求を自分自身で行う必要があります。
出産した病院や出産が正常分娩か異常分娩かといったことによって支払うべき医療費は異なりますが、大まかに考えても「50万円」程度のお金を一時的に用意し病院へ支払う流れとなります。
「大金を一時的に支払うこと」や「自分自身での申請」といった手間を考えますと、あまりお勧めできる方法ではありません。
この方法では、申請してから約2ヶ月後に出産育児一時金が指定口座へ振り込まれることとなります。
2つ目の方法 出産育児一時金の直接支払制度を利用(おすすめ度 〇 )
出産育児一時金をもらうための2つ目の方法は、「出産育児一時金の直接支払制度を利用する」方法になります。
出産育児一時金の直接支払制度について、全国健康保険協会のホームページで公開されているQ&Aは以下のとおりです。
※ 以下は「全国健康保険協会 出産育児一時金について」より抜粋引用
Q:出産育児一時金の直接支払制度とはどのような制度ですか?
出産前に被保険者等と医療機関等が出産育児一時金の支給申請及び受取りに係る契約を結び、医療機関等が被保険者等に代わって協会けんぽに出産育児一時金の申請を行い、直接、出産育児一時金の支給を受けることができる制度です。
出産育児一時金の支給が協会けんぽから直接医療機関等へ支払われることから、医療機関等の窓口で高額な出産にかかった費用を支払う必要がありません。出産にかかった費用が出産育児一時金の額より少ない場合は、その差額が被保険者等に支給されるため「健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書・差額申請書」の提出をお願いいたします。
出産育児一時金の直接支払制度を利用する場合、病院で出産し退院するまでの間に同制度についての説明を受けて必要書類に記入・捺印するといった手続が必要になります。また、その際に健康保険証を提示することも必要です。
子どもを出産し退院する際に請求される金額は、実際の請求金額から出産育児一時金の支給金額である42万円を差し引いた金額となります。
たとえば、出産費用として50万円かかったとします。この時、実際の請求金額である50万円から出産育児一時金42万円を差し引いた8万円を病院へ支払うことで決済完了となります。
出産育児一時金の直接支払制度がおすすめである理由は、一時的に大きなお金を用意する必要がなく、自分自身で手続をする手間が省けるところにあります。
そのため、まとまったお金がなくとも子どもを産みやすい制度になっていることが分かりますね。
帝王切開など特殊な出産の場合に使える公的制度は?
子どもを出産する場合、おもに「正常分娩」と「異常分娩」の2つにわけることができますが、実際に産み終えるまでどのようなことが起こるか予測することができません。
帝王切開のように医学的には、「異常分娩」という形で子どもを出産する方も多くおられることを踏まえ、ここからは帝王切開など特殊な出産の場合に使える公的制度を2つ紹介していきます。
帝王切開への助成制度その1:高額療養費制度
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った金額が、1か月間(月の初めから終わりまで)の一定金額を超えた場合に、その超えた金額を助成してくれる健康保険の制度のことをいいます。
高額療養費を計算する方法は、あらかじめ定められており、「年齢」や「所得」に応じた計算式にあてはめて計算することで、本人が支払う医療費の上限が決定する仕組みになっています。
高額療養費制度の詳しい説明については以前に書いた記事をご参照ください。
関連記事 これだけは知っておくべき高額療養費制度の4つのポイント
一般に「出産」は病気ではないことから、健康保険や国民健康保険の保険対象外となるため、実際に病院へ支払った医療費のほとんどが高額療養費制度の対象にはなりません。
しかし、帝王切開など「異常分娩」で出産した場合は、医学的な根拠に基づいて診療報酬点数表などで、その処置における医療費があらかじめ決められており、たとえば、平成28年度は「選択帝王切開20,140点」「緊急帝王切開22,200点」「複雑な手術加算2,000点」などとなっています。
1点あたり10円で計算されることになるため、選択帝王切開は201,400円、緊急帝王切開は222,000円、複雑な帝王切開手術となってしまった場合は20,000円が加算となるため、仮に帝王切開で子どもを出産した場合は、高額な医療費負担になってしまうことがわかると思います。
以下、妊娠から出産および退院までの間で高額療養費制度や公的保険が利用できるケースを一例として紹介します。
【妊娠中】
・ 切迫流産または流産
・ 切迫早産または早産
・ つわり
・ 前期破水
・ 妊娠高血圧症候群
・ その他
【出産および退院まで】
・ 帝王切開
・ 吸引分娩(対象外となる場合あり)
・ 陣痛促進剤の使用
・ 止血のための点滴
・ 死産(対象外となる場合あり)
・ その他
出産において高額療養費制度が適用になる場合とは、大まかに「正常分娩」で出産しなかった場合などで特殊な事情が起こった場合と考えるのがわかりやすいと思われます。
もしも病院からの請求金額が著しく高額だったときは、高額療養費制度の対象になるかどうかについて窓口や加入している公的保険の窓口などへ問い合わせてみるのも良いでしょう。
「限度額適用認定証」を活用しよう。
先に解説した「出産育児一時金の直接支払制度」を利用することにした場合であったとしても、仮に出産が急遽、帝王切開などに切り替わった場合におきましては、出産育児一時金42万円を差し引いたとしても、病院からの請求金額が多額になってしまうことが考えられます。このような状況の場合、結果として一時的に多額の医療費用を支払わなければならないことになり、精神的にも大きな負担を強いられることになってしまいます。
そこで、このような状況を避けるために、あらかじめ準備しておきたいのが「限度額適用認定証」です。
限度額適用認定証とは、高額療養費制度と仕組み自体は同じなのですが、病院などの窓口で支払う医療費が高額となった場合に「限度額適用認定証」を保険証と併せて病院などの窓口に提示することで、1ヵ月 (1日から月末まで)の窓口での医療費の支払いが自己負担限度額までとなる効果があります。
以下の計算例を見比べることで限度額適用認定証の効果がわかりやすくなると思います。
■計算例
1ヵ月の総医療費(10割):100万円 窓口負担割合:3割
【限度額適用認定証を提示しない場合】
300,000円(3割負担)を医療機関窓口で支払って、後日高額療養費の申請により、212,570円が払い戻され、87,430円の自己負担となります。
自己負担限度額:80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円
【限度額適用認定証を提示した場合】
87,430円(自己負担限度額)の支払い、後日高額療養費の申請が不要となります。
支払う医療費は87,430円でどちらも同じ金額なのですが、限度額適用認定証を提示しておくことで、後日の高額療養費の申請が不要になるだけでなく、窓口で一時的に30万円という多額の支払いをしなくても済むといった二重のメリットがあります。
このように、「出産育児一時金の直接支払制度」と「限度額適用認定証の交付申請」をどちらも行っておくことで、出産においてどのような事態が起こったとしても大きなお金を支出しなくともよい状況を作り出すことができます。
帝王切開への助成制度その2:医療費控除
医療費控除とは、1月1日~12月31日までの1年間に、自分や家族にかかった医療費の合計が10万円を超えた場合(所得が200万円以下の場合は所得の5%)に適用できる公的制度です。
医療費がその場で帰ってくるわけではありませんが、その分だけ翌年の税金が安くなり、実質的に医療費が返ってくるのと同じことになります。
医療費控除が認められるための「医療費」には条件があり、妊娠や出産に関する医療費として認められている主なものは以下のとおりです。
・ 妊婦健康検査費
・ 病院での診療および治療費
・ 分娩費用・入院費用
・ 医師が必要と認めた薬代
・ 赤ちゃんの健診費・入院費
・ 出産時のタクシー代や駐車場代
・ 病院の通院へかかった交通費 など
上記の医療費のほか、病院や薬局へ支払った家族の医療費や市販のかぜ薬を購入した費用などを合算して医療費を計算する流れとなりますが、サプリメントやビタミン剤の他、インフルエンザの予防接種といったように、医療費控除の対象医療費と認められないものもあるため、判定の仕方がわからない場合は、税理士や税務署といった税の専門部署へ問い合わせてみることをおすすめします。
すでに公的保険から支給される「出産育児一時金(42万円)」について解説しましたが、たとえば、出産した病院から医療費の請求として45万円を申し受けられたと仮定します。
この場合は45万円から42万円を差し引いた「3万円」が医療費控除の対象金額となります。
[豆知識]
帝王切開など特殊な出産への備えには民間医療保険も有効。
こちらは公的制度ではありませんが、帝王切開など特殊な出産をして高額な医療費がかかった時は、民間医療保険も利用できる可能性があります。民間医療保険とは、保険会社が販売している「医療保険」のことを指し、一般に「病気」や「けが」で入院した場合などに、保険契約に基づいた保険金が支払われる保険のことをいいます。
出産は病気ではないため、健康保険や国民健康保険といった公的保険の保険対象外ではあるものの、帝王切開など特殊な出産の場合は医療処置を施す必要もあることから、保険会社の医療保険でも保障がされるケースがあります。
たとえばエイ・ワン少額短期保険会社が販売している医療保険エヴリワンのように、妊娠中でも加入することができ、さらには帝王切開での出産となった場合でも保障してくれる医療保険も登場しています。
■ 妊娠中でも加入でき、帝王切開も保障される医療保険「エヴリワン」
http://lady-hoken.com/
出産後の費用負担を軽減する公的制度は?
これまで妊娠から出産までの費用負担を軽減する公的制度などについて解説しましたが、出産後についても生活やその他の費用負担を軽減する公的制度があります。
ここで解説する公的制度は、健康保険や国民健康保険のほか、雇用保険や厚生年金保険といった社会保険の加入のあり・なしによって違いがありますのでご注意ください。
出産後に受けれる助成制度その1:
出産手当金(健康保険)
出産予定日が近くなると多くの妊婦さんは、産前休暇を取得して会社を休む人も多いと思います。いわゆる「産休期間」は、勤めている会社から給料が支給されない場合がほとんどですから、出産前の「産前休暇」と出産した後の「産後休暇」のおおよそ3ヶ月程度の間に給料などの収入が途絶えてしまうことは大きな不安になります。
そのため、健康保険では「健康保険に加入している妊婦さん」に対して、産前休暇から産後休暇の間において「出産手当金」という給料の代わりとなるお金が支給されます。
具体的な支給期間は、「出産予定日」を基準に、出産予定日前42日から出産した日の翌日から56日までの期間となり、出産日や出産予定日から遅れて出産した場合の、遅れた期間においても出産手当金が支給されます。
大切な注意点として、出産手当金は「健康保険に加入している妊婦さん=被保険者」でなければ支給が受けられないことになっているため、たとえば夫に扶養されている人(専業主婦など)や国民健康保険に加入している人などは、出産手当金の支給を受けることができませんので、この点には注意が必要です。
出産手当金はいくらもらえるの?
気になる出産手当金の金額につきまして、全国健康保険協会のホームページでは、以下のように公開しております。
全国健康保険協会HP「出産手当金について」より引用
■1日あたりの出産手当金の金額
【支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額】(※)÷30日×(2/3)
支給開始日とは、一番最初に出産手当金が支給された日のことです
(※)支給開始日の以前の期間が12ヶ月に満たない場合は、
・支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
・28万円(当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額)
を比べて少ないほうの額を使用して計算します。
出産手当金の計算方法が変更になったことを受け、給料から天引きされている健康保険料から1日あたりの出産手当金の金額を推測することができなくなったため、実際に受け取れる金額を知りたい場合は、加入している健康保険の担当者や会社の事務担当者に尋ねてみるのがよいでしょう。
なお、出産手当金の支給申請手続におきましても、勤務先で手続を取ってくれるのが一般的ですので、その際に出産手当金の金額も併せて確認するのも手間が省けてよいでしょう。
出産後に受けれる助成制度その2:
育児休業給付金(雇用保険)
出産するための「産前産後休暇」が終了すると、そのまま子どもが1歳になるまで「育児休業」を取得する女性も多いと思います。
この育児休業期間中も勤務先から給料が支払われることはほとんどないことから、半年以上に渡って収入が途絶えてしまうことになります。
このような問題を解決し、子育てに大きな影響を与えないようにするために、原則として子どもが1歳になるまでの育児休業期間中に「育児休業給付金」が雇用保険から支給される制度があります。この育児休業給付金も前項で解説した出産手当金と同じような考え方となり、雇用保険に加入している人でなければ支給されることはありません。
そのためこちらも原則として、「国民健康保険に加入している人」や「雇用保険に加入していないパート、アルバイトの女性」「妊娠中に勤務先を退職した女性」「育児休業を取得した時点で、育児休業明けに勤務先を退職する予定の女性」などは育児休業給付金の支給対象外となるため注意が必要です。
育児休業給付金の支給金額は、定額制ではなく、その支給される人のもらっている給料の金額が大きく影響することになるため、一概に金額を解説することは残念ながらできません。参考までに、あくまでも目安となりますが、育児休業給付金は「最初の180日間は月給の67%」「181日目からは月給の50%」が1つの金額の目安となります。
また、最近の社会問題にもなっている待機児童問題などを受けて、たとえば
・保育園の入所待ちである場合
・配偶者が死亡してしまった場合
・うつ病など大きな病気をしてしまった場合
などの特別な理由がある場合は、本来は子どもが1歳になるまでしか支給される育児休業給付金が1歳6ヶ月になるまで延長される仕組みもあり、これらにつきましては確実に押さえておきたいポイントです。
なお、育児休業給付金を支給するための手続きも、出産手当金と同じように勤務先が代わりに行ってくれることが一般的で、育児休業給付金についての窓口でもある各種ハローワークでも、勤務先が本人に代わって育児休業給付金の手続をするように推奨しています。
そのため、妊娠している女性が産前産後休暇を取得し出産、育児休業を経て再び復職するまでの流れにおける「出産手当金」や「育児休業給付金」の支給申請におきましては、勤務先がすべて代わりに行ってくれると思って差し支えありません。
ただし、いずれのお金も手続を申請してから実際に指定した口座へ振り込まれるまでには一定期間を要する点には留意しておきたいものです。
出産後に受けれる助成制度その3:
健康保険料・厚生年金保険料の納付免除
会社勤務をしていると、雇用保険や健康保険、厚生年金保険といったいわゆる「社会保険料」が給料から天引きされる仕組みになっていますが、産前産後休暇中や育児休業期間中はこれらの支払いは「納付免除」といってお金を支払わなくともよいことになっています。
この期間中の健康保険料や厚生年金保険料は、お金を納めたものとみなされることになっており、たとえば老後の生活資金である公的年金も実際にはお金を納めていないものの、年金を納めたものとして取り扱われることになります。
なお、雇用保険料は給料の支給額に対して雇用保険料率を乗じて計算されますが、勤務先から給料の支払いがない場合は、雇用保険料も0円になるため、結果として社会保険料は産前産後休暇中から育児休業明けまで支払わなくてもよいことになります。
納付免除の取り扱いを受けるためには、勤務先が加入している健康保険の窓口や年金事務所へ申請をする必要がありますが、実際に手続をされているか不安な場合は念のため確認しておくと安心です。
出産後に受けれる助成制度その4:
児童手当
児童手当とは、0歳から中学校を卒業するまで(15歳)の子を育てている父または母に支給されるお金のことをいいます。
多くの地方自治体では、児童手当の支給忘れを避けるために、子どもが出生し「出生届」をお住いの役所へ届出する際に児童手当の支給申請手続を流れに沿って行うことが一般的です。
この手続を行うことで1年に3回(2月、6月、10月)、指定した親の口座へ子ども1人あたり4ヶ月分がまとめて振り込まれます。
また、児童手当の特別な手続としては毎年6月になると自宅へ児童手当の「現況届」が郵送で送られてきます。この現況届を決められた期間までに提出し、問題がなければ引き続き児童手当が一定月になると振り込まれることになります。
現況届を提出させる主な目的は、「児童手当の支給条件を満たしているのか」「前年の所得状況に問題がないか」などを確認するためのものであり、やむをえない理由を除いて決められた期間までに現況届を提出しないと児童手当の支給がされないことになるので注意が必要です。
なお、平成28年10月現在における児童手当の金額と所得制限限度額は、以下のとおりです。
【児童手当の金額】
・ 0歳~3歳未満の子どもすべて 1人につき15,000円
・ 3歳から小学校修了までの第1子・2子 1人につき10,000円
・ 3歳から小学校修了までの第3子以降 1人につき15,000円
・ 中学生 1人につき10,000円
・ 所得制限を超える場合 1人につき5,000円
【所得制限限度額】
・ 扶養親族等の数が0人の場合
所得額 622万円 収入額 833.3万円
・ 扶養親族等の数が1人の場合
所得額 660万円 収入額 875.6万円
・ 扶養親族等の数が2人の場合
所得額 698万円 収入額 917.8万円
・ 扶養親族等の数が3人の場合
所得額 736万円 収入額 960.0万円
・ 扶養親族等の数が4人の場合
所得額 774万円 収入額 1002.1万円
・ 扶養親族等の数が5人の場合
所得額 812万円 収入額 1042.1万円
出産後に受けれる助成制度その5:
乳幼児健康診査費の助成
乳幼児健康診査とは、子どもの発育状況、栄養状態、精神発達、病気や異常の有無といったことを診てもらうことができ、健診費用は「無料」という助成制度です。
乳幼児健康診査はお住まいの地方自治体によって健診時期が異なる特徴があり「3から4ヶ月」「6から7ヶ月」「9から10ヶ月」「1歳6ヶ月から2歳未満」「3歳から4歳未満」などとなっています。
また、健診を受ける場所も地方自治体が指定している保健所や契約医療機関で受診しなければなりません。
乳幼児健康診査の助成方法は、健診費用が無料になる「受診券」が配布されることが多いようですが、一例として、妊娠した際に妊娠届を提出することによって受け取ることができる母子手帳と共に受診券を受け取る場合や健診費用を一旦支払い、後日、申請して還付される場合などさまざまです。
出産後に受けれる助成制度その6:
子ども医療費助成制度(マル福)
子ども医療費助成制度は一般に「マル福」とも呼ばれ、子を持つ多くの親御さんに馴染み深い制度であると思います。
子ども医療費助成制度は、児童手当と同じように、0歳から中学校を修了するまでの子どもが病院などの医療機関にかかった場合に、医療費が助成される制度です。この制度もお住まいの地方自治体によって制度内容がさまざまであり、一例として以下の助成内容があります。
・ 0歳から中学校を修了するまで医療費を全額助成(無料)
・ 0歳から中学校を修了するまで医療費を半額助成(半分自己負担)
・ 0歳から就学前医療費を全額助成(無料)
・ 0歳から小学校を修了するまで医療費を全額助成(無料)
これらの助成期間が異なるほかに、給付方法による違いもあります。具体的には、「現物支給」と「償還払い」の2つにわけられ、両者の違いは以下のようになります。
現物支給の2つの方法
1.お住いの市区町村役所に子ども医療費助成制度の申請をし、医療証をもらう
(病気などで実際に医療機関において受診する際に「健康保険証」と「医療証」を提示することでお住いの地方自治体が定めている助成を受けられる)
2.お住いの市区町村役所に子ども医療費助成制度の申請をすることで、地方自治体が定めている支給額分のクーポン券を受け取る
(病気などで実際に医療機関において受診する際に「健康保険証」と「クーポン券」を提示することでお住いの地方自治体が定めている助成を受けられる)
償還払いの方法
医療機関の窓口で、いったん医療費の自己負担分を全額支払います。そして、後日、お住いの市区町村の役所などで、申請書と共に医療費の領収書や子どもの健康保険証を添えて申請し、給付金の振込口座がわかるものを提出することによって、後日に指定口座に給付金が振り込まれます。
この記事のまとめ
ここまで妊娠から出産後までの費用負担を軽減する公的制度と不妊治療助成について幅広く詳しく解説させていただきました。
たとえば、民間の医療保険に加入してなくて出産の際に帝王切開をすることになった場合を除きますと、妊娠から出産までにかかるお金が大きな金額になることはほとんどありません。
妊娠がわかった時には、まずは夫婦で共に喜びを分かち合い、将来に誕生する我が子のためにどのようにお金を貯めていくか考えていくことが大切だと思います。
一方で、国民健康保険に加入しているなど、妊婦さんが社会保険に加入していない場合では、妊娠から出産までに利用できるお金に関する制度が限られていることもあるため、逆に本記事の内容を参考にどのような対策をしていく必要があるのか夫婦で話し合ってもらえるきっかけになっていただければと感じています。
また、子どもは授かるものであるからこそ、妊娠がわかってから出産までの約10ヶ月の間で、親として何ができるのか、何をしていく必要があるのか経済的な面も含めてじっくり考える必要もありそうです。今回解説した公的制度が、ここまでの長文を読んでくださった皆さまにとって少しでもお役に立つきっかけになっていただければ幸いだと感じることができます。
この記事の参考文献
・全国健康保険協会「子どもが生まれたとき」
・妊娠中でも入れる医療保険(エイワン少額短期保険会社)
・「母子保健及び子どもの慢性的な疾病についての対策」(厚生労働省)
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